チャーチ ディプロマット | Church's DIPLOMAT

購入まで

いろいろな靴を手に入れだすと気になってくる、海外ブランドの靴。
国産靴に不満があるわけでもないが、異文化に触れてみたいという欲求が次第に募ってきた。


「あちら」のモノには、国産にはない「なにか」があると常々思っている。
モノづくりに対する姿勢やモノを取り巻く歴史や環境など、大雑把に言えば「文化が違う」ということだと思うが、違う文化の国で作られた同じモノの違いはとても興味深い。
車などまさにその典型で『我々の造る車はこうなのだ』というあちらのメーカーの哲学に惹かれる人も多い(国産車でもそれを感じることはあるが、多くは「大衆の求めるもの」を優先しすぎているように思う)。
もちろん国産車が優れている点も多く、また国内で乗るなら国産車が無難であることは間違いないとは思うのだが、違う国の文化に触れることで自分自身の物差し(価値観)を進化(深化)させることができたなら、それはとても有意義なことだと思う。
またそれによって、あらためて国産車のよさを感じることもある。

話が脱線してしまったが、靴でも「あちらの文化」に触れてみたくなり、思い切って一足購入することにした。
予算の都合もあるが、靴箱に飾っておきたくなるような靴よりもしっかり履いて堪能できる靴がいい。

いろいろ検討した末、選んだのはチャーチ・ディプロマットで色はエボニー。
質実剛健な靴、足に合いそうな木型という点でチャーチのラスト173が候補に挙がり、所有していないデザイン、仕事の日もオフの日にも使いやすいという点でディプロマットのエボニーを選んだ。

購入はかなり冒険ではあったが、通販を利用した。
木型が自分に合うのか、サイズはいくつが適切なのかと当分の間悩んだが、多くのインプレを参考にさせてもらってラスト173なら6.5Fで大丈夫そうだ、と心は決まった(といっても最後は「ダメだったら送料負担してでも返品交換すればいいや」である)。

到着

注文後、ほんの数日でディプロマットはやってきた。
エボニーの色味は、かなり濃い目のダークブラウンといったところか。
思っていた通りの色だったので、まずは安心。


どきどきしながら、皺を入れないよう(返品の可能性があるので)慎重に履いてみる。
ちょっとタイトだが捨て寸も充分、羽根の開き具合も適切で、これならいけると感じられる。
早速プレメンテを始めることにした。


まずは湿らせたコットンで拭い(ほとんど色は付かなかった)、次にサフィールノワールのスペシャルナッパデリケートクリームを内外に塗る。
その後しばらく寝かせてから、アッパーにブートブラックのリッチモイスチャーを塗る。
ツリーはシェットランド・インバネス用のスレイプニル・トラディショナル39がぴったりだったので、当面はこれを流用することにした。

以後は数時間足入れしてはツリーを入れて休ませ、次の日にまた足入れしてツリーを入れて休ませ、途中で徐々に曲げを入れ始める、というプロセスを数日間続けていく。
途中、革の状態を確認しながらリッチモイスチャーなどを追加する。

プレメンテは何が正解かわからないが、今のところは
1. 最初のステインリムーバーは、必要と感じない場合はやらない(水拭きのみ)
2. 靴の内外にデリケートクリームを入れる(プレメンテにはモゥブレイよりサフィールの方が適しているような気がする)
3. リッチモイスチャーなどで潤いを与える(水分・油分ともにやや多めに。革底の靴はソールモイスチャライザーなどを)
4. 足入れを行い、靴を足に馴染ませる(このプロセスはとても大事だと感じている)
5. 少しずつ負荷(曲げ)を掛けていき、脱いだらすぐツリーを入れる
6. 革の状態をよく観察し、必要なら水分・油分を追加で与える
7. 4~6を繰り返し、ある程度馴染んだと思えたらしっかりと負荷(曲げ)を掛ける
8. その時々の判断でハーフラバーを貼り、通常のクリームを塗って終了
というようにやっている。
また、履き下ろし後しばらくはステインリムーバーを使わず、クリームを塗る頻度を上げるようにしている。

この靴にはハーフラバーを貼ってもらうことにした。
これまでハーフラバーは、オデッサにビブラムの#7673(1.8mm厚)、インバネスには#2340エクスプロージョン(2mm厚)を貼っているが、このディプロマットには#2027シモン(2mm厚)を選んでみた。
このシモンはスリットのおかげで非常に曲げやすく、返りを妨げない(店頭で比較させてもらったが、他のハーフラバーとの差は歴然だった)。



加えていつものゴムあても施す。


そしてクレム1925のダークブラウンを塗り、履き下ろしの準備は整った。

履き下ろし~現在まで

まずは近所を少し歩くだけに留める。
全体的にそれなりのタイトさはあるが痛い箇所はなく、また踵の抜けもなく、馴染めばとてもよくなりそうな感触。
意外に返りも悪くはなく、固い靴だろうなという予想は見事に覆された。
最初から思いのほか快適だったため、3回目から会社に履いていったが、浮腫むとやや甲がきついものの概ね問題はない。

その後も順調に馴染んでいき、10回目あたりからはすっかり慣れてきた。
何と言えばいいのかわからないが「足が靴を覚えた」という感じだろうか。
現在まだ15回程度しか履いていないが、とても快適である。

履き心地

自分の足がどういうタイプなのか未だによくわかっていないのであるが(最初のエントリに測定してもらった結果をアップしている)、エジプト型で幅はやや狭め、甲は低めであるようだ(おまけに偏平足)。
たまたまそんな足と相性がよかったのか、ラスト173の6.5Fは捨て寸も充分、甲はほどほどのフィット感、踝は痛くならない、踵は抜けない、と何も問題がない。
どこもきつくないが、どこも満遍なく足に触れている、そんな感じを受ける。
強いて言えば浮腫んだときにやや甲に圧迫感があり、右小指への当りがきつく感じることがあるが、これからさらに沈んでいくことを考えると問題ないだろう。

足裏はやや硬い気もするが、踵のクッションはよい。
履き慣らすのに時間が掛かるとのインプレも目にしたが、私の場合はあっという間に馴染んだ印象がある。
これからユルユルになっていかなければよいのだが、今のところ羽根はしっかり開いているので大丈夫だと思いたい。
というかあらためて撮影してみると、羽根の開き具合は足入れ直後とほとんど変わっていないようだ。




革質・デザイン

革質は素晴らしくよい・・・ということはないが、特に不満を覚えるほどでもない。
皺の入り方はまずまずだと思うが、革質の左右差はある。
個体差なのか、他の靴と比べてクリームを塗布後のもっちり感があまり持続しないようにも感じる。



それよりもステッチがギリギリなのが気になる。
クオリティに過大な期待は抱いていないが、耐久性に問題があるとなると困ってしまう。
ショーンハイトのオーダー会に行ったときにこの靴を履いていたのだが、東立製靴の伊藤さんには「攻めてますねー」とコメントをいただいた。


デザインを語れるほど造詣が深くないのだが、素人目に見ても全体的にぽっちゃり、キャップは小さめ、でも存在感はある。
例えばスコッチグレイン・オデッサと比べると印象が全然異なる。


他人から見るとこのくらいのアングルになるだろうか。
ぽっちゃりではあるが、そのおかげでオフの日でも合わせやすいようにも思える。



トラブル

プレメンテ中に不具合を発見してしまった。
タンとアッパーを縫い付けている箇所である。



拡大すると・・・


どうしてこうなってしまったのか(汗)。
いつもほつれはライターで炙って処理しているが、ここもそうしていいものか悩む。
そこで修理屋さんにメールで相談してみることにした(このサイトはとてもためになります。一読をおすすめ)。

いきなりのメールにも親切に対応していただき、カットして炙ってよいとアドバイスをもらったので実行してみる。
ライターよりもチャッカマンのようなものがいいとのことだったので、100円ショップでターボライター型のものを買ってきた。
写真の状態から糸を5mmくらい残してカットして、念のため周辺にデリケートクリームを塗り、実行!


ターボライターなので少し離れたところで着火し、炎を糸に近づけていく。
糸が燃えて溶け始めたら縫い目に吸い込まれる直前まで素早く追っていき、炎を離して指でしっかりと押さえる。
炎を離すのが早すぎると糸が残ってしまうので思い切りも必要だが、延焼しては元も子もないので慎重かつ大胆に行う。

結果は大成功、今もまったく問題はない。


他にも履き口周辺にも糸の乱れが多少あったので、同様に処理しておいた。

あちらの靴のクオリティには神経質になり過ぎないように、という話を聞いていたのであまり気にしていないが、こんなこともあるんだなあ、と思った次第である。

修理屋さんには大変お世話になったので、いつかオールソールする際にはお願いしてみようと思っている。

このターボライター型チャッカマン(もどき)はとても便利で、以後もよく使用している。
使える?100円ショップの靴用品たち」に「おすすめ度:高」で追加してもよい製品である。


文化の違いは

さて、冒頭に書いたように文化の違いは感じられたかというと、確かに感じられたのだが言葉にするのは難しい。

抽象的になってしまうが、全体的にとてもかっちりしている。
存在感があり、佇まいがいい。
履き心地に大きな特徴はないが、自然と足に馴染む。
価格が高いということもあるけれど、この靴を履く日は気分が高揚する。
長く履けるかどうかはまだわからないが、きっと大丈夫だろう。


あとは、伝統的な雰囲気だろうか。
靴の歴史に疎い私でも、この靴を眺めているといろいろ感じるものがある。

買って後悔することは全くなく、とても気に入った。
これからも大事に、でもしっかりと履いていこうと思う。

それにしても(私に限らないと思うが)日本人の性なのだろうか、海外製品には歴史を求めるのに、国産品には新しいものを求める傾向があるのは少し面白い。


最後に価格の話を。
チャーチ・ディプロマットの公式サイトはこちらだが、現地の定価は£495とある。
日本円にすると7万円ちょっと、決して安い靴ではない。
国産靴で7万円出せば、既成靴ならかなり上質な靴が買えてしまう。
そう考えると国産靴には価格に応じた革質のよさ、造りのよさ、コストパフォーマンスのよさなど、優れた点が大いにある。

結局のところ、靴も車も似たようなものなのかもしれない。

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