パラブーツ アヴィニョン | Paraboot AVIGNON
衝動買い
パラブーツ・アヴィニョンを衝動買いしてしまった。コロナ禍の前、東京出張に引っ掛けた観光の最終日に伊勢丹メンズ館で購入した。
もともとこの靴を求めていたわけではないのだが、普段あまり見かけることのない靴たちを見て舞い上がってしまったのか「せっかく来たのだから…」というノリで何か欲しくなってしまったのである(嫁さんのOKが出た…というのが一番かもしれない)。
普段はお目にかかれない靴を見て回りながら、買うなら休みの日用かなあとぼんやり考えていたところ、パラブーツに目が留まった。
実のところブランド靴には疎く「パラブーツと言ったらシャンボード」程度の知識しかなかったので、とりあえずは知名度の高いシャンボードを試着させてもらうことにした。
ところがどうやっても足に合わない。
私の足は甲が低いため、長さで合わせると甲が緩く羽根が閉じるし、サイズを落とすと捨て寸が足らずにつま先が当たってしまう。
これはどうやっても無理だなあと諦めかけていたところ、店員さんがアヴィニョンを持ってきてくれた。
スーツに合わせるつもりはなかったので、デザインはシャンボードの方が好みだったのだが、これはこれで悪くない。
履いてみると、これでもやや甲に余裕はあるものの、フィット感はシャンボードより圧倒的によい。
6、6.5、7と納得いくまで試させてもらい、6.5のリスレザー・ノワール(黒)を購入することにした。
実のところタイトな靴に慣れてくると、これでもやや緩いかなあとも思ったのだが、店員さんの「これがパラブーツのフィット感ですよ」という一言で納得してしまったのである。
アヴィニョンについて
フランス本国ではシャンボードよりアヴィニョンが人気らしいが、日本では圧倒的にシャンボードだろう。よく言われるように、シャンボードより細く薄く、ややドレッシーなデザインである。
ドレッシーと言ってもステッチは白だし緑色のタグもあるので、一般的にはスーツには不可だと思うが。
同じUチップでもモカの縫い方も切り返しも異なり、おなじみのタグも付き方が異なる。
こちらはシャンボード。
製法はどちらもノルウィージャン・ウェルテッド。
余談だが「ノルウィージャン」「ノルヴィージャン」「ノルヴェイジャン」「ノルウェージャン」など、いったいどれが正しいのだろうか(綴りは"Norwegian"、発音は「のぅうぃーじぇん」に聴こえる)。
公式サイトでは「ノルヴェイジャン」となっており
「名前の起源は謎ですが、ノルウェーと関係はありません」とあるが、サイトによっては国名のノルウェーとの関連を思わせる記載もあり、正確なところはわからなかった。
プレメンテ~履き下ろし
リスレザーを取り扱うのは初めてだったが、オイルドレザーの一種ということであまり神経質にならなくてもよいだろうと判断した。内外ともにコロニル・シュプリームクリームを塗り、翌日にクレム1925を塗っただけである。
そのまま履き下ろしたが、革は柔らかいしソールの返りもいいし、初日に親指側面が少し痛んだだけで大きな問題はなかった。
以後は休みのたびに少しずつ履いていき、途中今度は小指側がやや痛いこともあったが、そのうちに気にならなくなった。
サイズ感と履き心地
サイズは率直に言って、店員さんの一言で間違いはなかった。緩すぎずきつすぎず、このサイズ以外はなかったと思える。
幅広な見かけによらず土踏まずのホールド感があり、踵もしっかりと掴んでくれる。
ただし踝がやや高いので、人によっては気になるかもしれない。
靴に包まれている感じが強く、履き心地はとてもよいが、夏場は少し暑苦しいと言えなくもない。
コルクを使用しない中底は噂どおりほとんど沈んでいないが、それでも若干の馴染みはあるし革も伸びる。
とは言えグッドイヤー・ウェルトの靴ほどの変化はないので、沈みを考慮したサイズ選びは危険だろう。
タイトフィットよりジャストフィットのサイズを選ぶべきだと思う。
シューツリーは02PRで使っていたLifeValueを流用。
形状は右のスレイプニル・トラディショナルの方がよさそうなのだが、手持ちのサイズ40だと長さ方向のテンションがやや不足しているようだ(写真ではよさそうに見えるが、ここから奥にグッと押してやるとかなり伸びてしまう)。
リスレザーだからと言って好き好んで雨の日に履くことはないが、少々雨に打たれても問題がないのは気楽でいい。
ただし最初ごろはゴム臭く、これを履いて車を運転するとヒーターの風で運ばれた臭いが鼻を突いて仕方なかった。
実店舗かネット通販か
現時点での税抜き定価は65,000円、通販だと25~30%オフで購入できる。私は定価で購入したが、店員さんの対応は非常によく、フィッティングをしっかり確認して満足のいく買い物ができたので、割高だったとは思っていない(財布は痛いが)。
チャーチ・ディプロマットでは冒険してしまったが(実は地元で取り扱いがなかった)、一般的にラストやサイズに知見のない靴の通販は危険である。
サイズ交換はできるお店もあるが、ラストが足に合わないのではどのサイズを選んだところで合わないからだ。
ラストとサイズがよくわかっているなら通販でもよいのだが…実店舗ならではのよさもあり、なかなか悩ましいところである。
メンテナンス
リスレザーの手入れはどうすればいいのか、いろいろと調べたが決定的な情報は得られなかった。「とりあえずクレムならいいんじゃないか」と思っていたが、モゥブレイのビーズエイジングオイルがよりよさそうに思えたので、購入して使ってみた。
ミンクオイルに対する優位性(べたつきにくい)を謳っているが、塗ってみると確かにべたつきにくく、さらっと仕上がる。
指で塗り、しばらく放置して軽くブラシを掛け、ウエスで拭き上げるだけでしっとりした艶が出る。
汚れた指もティッシュで拭き取るだけでベタベタせず、使用感は悪くない。
ところで成分に「蜜蝋・有機溶剤」としか書いていないこの製品、よくよく考えると不思議である。
「蜜蝋=ワックス」なのに商品名は「オイル」、塗っているのはいったいどちらなのだろうか。
正解は「蜜蝋をオイルに溶かした製品」すなわち「蜜蝋入りオイル」で、「塗っているのは蜜蝋とオイルの両方」だと思われるが、なんだか紛らわしい気もする。
デリケートクリームでおなじみのラノリンもワックスなので、こちらも紛らわしいが。
ともあれ製品として悪い印象は全く受けなかったので、当面はこのビーズエイジングオイルを基本として、いろいろ試してみようと思う。
艶を求める靴ではないと割り切っているので悪影響さえなければよく、メンテナンスの面でも気楽である。
なお、後日地元の百貨店でも聞いてみたが「それほど神経質にならなくてもよいでしょう」という具合で、シュプリームクリーム、イングリッシュギルド、クレム、リッチモイスチャー等、何でもよさそうな雰囲気だった。
問題
やや気になる点は、左右でアッパーの革質が異なること。右側はとてもよいのだが、左側はそうはならなかった。
もっとも、皺を気にする靴でもないだろう。
もうひとつ、ソール前側がやや剥がれかけている。
こちらも「もう少し剥がれたら修理すればいいか」とあまり気にしていない。
所感
短時間の使用も含めて現在24回履いているが、最初からあまり違和感がなかったためか、劇的に馴染んできたという感じは受けない。グッドイヤー・ウェルトの靴と比べて変化がないという意味であるが、こんな靴もあるんだ、という発見もあってとても興味深い。
履き心地はとてもよく、ストレスを感じることはない。
雨にも傷にも強いアッパー、滑りにくく減りにくいソール、知名度は低いが自分の足に合ったよい靴だと感じている。
私にとっては非常に高額な靴だが、それでいて気を遣う必要がない靴でもあり、そこに少々戸惑いを感じなくもない。
「高い靴だから大事に履こう」とするのだが「高い靴だけど気を遣う必要がない」のであるから。
この靴の何たるかを知るには、もっと時間が必要なのかもしれない。
週末だけの使用になるため、なかなか回数は伸びないが、じっくり付き合っていこうと思っている。
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